抄録
ラン藻をはじめ多くの光合成生物においてクロロフィル生合成系のプロトクロロフィリド(Pchlide)還元には、光依存型Pchlide還元酵素(LPOR)とニトロゲナーゼと類似した光非依存型Pchlide還元酵素(DPOR)という構造的にまったく異なる2つの酵素が併用されている。ラン藻Plectonema boryanumにおいてLPORが強光条件での生育に必須であることが示されているのに対して、DPORが多くの光合成生物においてLPORと併用されている生理学的意義については不明のままである。今回、P. boryanumのDPOR欠損株(chlL破壊株)を様々な光条件で培養し、DPORが必要とされる生育条件について検討した。暗所従属培養から強光(>200 μmol m-2 s-1)にシフトすると、DPOR欠損株に有意な生育遅延(約8 h)が起こった。さらに、16 h暗所-8 h強光という明暗周期で光合成的に生育させると、培養開始時のクロロフィル含量が同じであるにもかかわらずDPOR欠損株は、最初の明期において明確な生育遅延を示した。これらの結果は、DPORが強光適応の初期において重要な役割をもっていることを示唆している。DPORの光合成生物における分布とその生理学的意義について考察する。