抄録
これまでフェロキラターゼ活性や細胞内でのヘム含量の測定は、主にアルカリ-ピリジンヘムクロム法などにより行われてきた。しかしこの方法は、ピリジンヘムクロムの吸光係数が低くことやピリジンが毒性を有することなど問題も多かった。植物ではヘムは葉緑体で生合成され細胞内の様々なオルガネラに輸送される。細胞内でのヘムの動態を解析するためには、ピリジンヘムクロム法に代わる安全かつ高感度なヘム定量系が必要である。そこで本研究では、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)のアポ蛋白質がヘムと結合することにより再構成されたペルオキシダーゼ活性を、ルミノールを用いた化学発光法を検出することで、高感度なヘムを測定系の開発を行った。
HRPとヘムの結合によるペルオキシダーゼ活性の再構成はインキュベーション開始30分後に飽和に達した。またルミノール添加後の化学発光は、反応開始後30分で安定な発光が見られた。化学発光値と添加したヘムの濃度には直線的な関係が得られ、検出限界濃度はおよそ10 pMであった。ヘム以外のポルフィリン類や金属ポルフィリン類は全くペルオキシダーゼ活性を上昇させなかった。またルミノールを酸化するFe2+の影響はヘムにより3桁以上低く、無視できるものであった。本方法を用いたテトラピロール結合蛋白質からのヘムの放出や、フェロキラターゼ活性の測定、また植物体やオルガネラにおけるヘム含量の測定などについて検討を行っている。