抄録
植物はさまざまな環境要因を感知し、繁殖するために開花を行う最適な時期を決定している。このうち、日長は植物が感知する主要な環境要因の一つに挙げられる。短日植物であるイネは、ある一定以上の長さの暗期を有する短日条件においてHd3a遺伝子の発現が上昇することにより開花が誘導されることがこれまでの報告により明らかにされている。本研究では、栽培イネ(Oryza sativa L.)における光周性開花経路の多様性の解析を行う目的で、栽培イネ64品種から構成されるイネコアコレクションを用いて、短日条件下におけるHd3a遺伝子の発現量および開花日数を調べた。この結果、Hd3a遺伝子の発現量と開花日数の間には負の相関が見られた。さらに、コアコレクションを用いて、短日条件下での『光中断』における反応の多様性についても調べた。光中断とは暗期の中央に短時間の光を与え連続暗期を中断する処理のことで、これまでに当研究室ではHd3a遺伝子の発現が抑制され開花遅延が生じることを明らかにしてきた。この結果、ほぼ全ての品種において光中断によるHd3a遺伝子の発現抑制が見られ、光中断による開花遅延は栽培イネにおいて普遍的な現象であることが示唆された。本研究では、イネコアコレクションを用いた実験から、栽培イネにおける光周性開花経路の分子機構の多様性について考察する。