日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P007
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発表要旨
SfMと機械学習を用いた沿岸巨礫の抽出:和歌山県串本町橋杭岩を例として
*石村 大輔山田 圭太郎
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抄録

1.はじめに

 沿岸部に分布する巨礫は,過去の津波や高潮・暴浪を示す場合があり,津波の場合は「津波堆積物」に含まれ,津波礫と呼ばれる.南西諸島では,1771年の八重山大津波とより古い津波の痕跡として,化石サンゴからなる津波礫の年代が求められている(Araoka et al., 2013).また台風による高波によって運搬された巨礫とは,その分布が異なることが指摘されており(例えば,Goto et al., 2013),その分布と重量(体積)に関する情報は,沿岸巨礫の運搬過程を議論する上で重要な情報となる.このような沿岸巨礫の分布は,衛生画像や空中写真でも確認はされるものの,既存研究の多くは実際に現地で測量し,位置や大きさを求めている.一方,最近では,より低高度からのドローンによる空撮とSfM(Structure from Motion)技術を利用した高解像度地形データやオルソ画像の作成が容易になっている.さらに機械学習を組み合わせて,河床や断層崖周辺に分布する礫のマッピングが試みられている(Chen et al., 2021; Lang et al., 2021).

 本研究では,フィリピン・ルソン島の沿岸巨礫のマッピングを最終的な目的とし,その手法検討のため和歌山県串本町にある橋杭岩を対象にドローン撮影,SfMによるオルソ画像作成,機械学習による巨礫の抽出,を行った.沿岸巨礫のマッピングに,SfMと機械学習を試みることは,より定量的なデータを取得すると同時に,限られた時間で効率的に広域の情報を取得することにもつながる.これは,海外における調査を行う際には大きな利点となる.

2.研究地域概要

 橋杭岩は和歌山県串本町に分布する.これは貫入岩であり,差別侵食により直線的かつ壁状に海岸に分布する.そして,その西側のベンチ上には,橋杭岩を給源とする巨礫が無数に分布している.宍倉(2013)では,ベンチ上の巨礫に付着する生物遺骸から12-14世紀と17-18世紀に移動したことを述べ,これらの巨礫が過去の大津波の際に移動したと推定されている.

3.手法

 本研究では,上記のベンチ上の巨礫を対象に,DJI社のMavic air 2を使用し,飛行高度とカメラアングルを変え,複数回動画撮影を行った.SfMに使用する画像は,動画から切り出したものを使用した.SfMには,Agisoft社製Metashape Proを使用した.オルソ画像作成に際しては,解像度が最大となるように処理した.

 SfMによって出力されたオルソモザイク(解像度1.9 cm/pix)から津波礫を検出するために,Semantic segmentationとInstance segmentationを行い,比較した.それぞれのタスクにはU-NetとMask R-CNNを用いた.本研究では,3000を超える礫のアノテーションを行い,一部を教師データとして機械学習を行った.

4.巨礫の抽出

 機械学習の結果,橋杭岩の西側のベンチ上にある礫を十分な精度でその輪郭も含めて検出することができた.また,画像の品質が悪い部分(焦点が合っていない領域,植生の影響がある領域,水域がある領域)でも,ある程度検出することができた.このように,予察的な段階ではあるが,識別が容易な領域から困難な領域までをカバーする結果が得られた.

5.まとめ

 本研究では,橋杭岩をケーススタディとし,SfMと機械学習を使用した沿岸巨礫のマッピングを試みた.その結果,高解像度のオルソ画像を作成することができ,その画像に基づき複数の機械学習手法により巨礫を検出することができた.この結果を精査するとともに,フィリピンでの適用可能性を探っていく.その精度や検出できる礫のサイズに関しても今後の検討課題である.

引用文献: Araoka et al. (2013) Geology, 41, 919-922. Chen et al. (2021) 2020 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS). Goto et al. (2013) Geology, 41, 1139-1142. Lang et al. (2021) Hydrol. Earth Syst. Sci., 25, 2567-2597. 宍倉(2013)地形・地質記録から見た南海トラフの巨大地震・津波(南海地域の例),GSJ地質ニュース,2,201-204.

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