抄録
花粉の形成には花粉中で働く遺伝子だけでなく、タペート細胞などの葯壁の細胞で発現する遺伝子の働きも重要である。シロイヌナズナのFLAKY POLLEN1 (FKP1) 遺伝子はメバロン酸経路の酵素HMG-CoAシンターゼをコードする唯一の遺伝子で、その突然変異体はアリルによってポレンコートが欠損したり、花粉管が伸長できなくなったりする表現型を示す。そこで、FKP1のcDNAをタペート細胞特異的プロモーター(SP11)と花粉特異的プロモーター(LAT52)につないでそれぞれ発現させ、どこで発現させたときにどの表現型が回復するかを調べた。その結果、タペート細胞で発現させたときにのみポレンコートの形成が回復した。一方花粉で発現させた場合には花粉管伸長が見られるようになると予想されるので、現在確認の実験を行っている。
SHEPHERD (SHD) は小胞体に局在するHsp90型の分子シャペロンをコードする遺伝子である。shd突然変異体では花粉の表層を構成するエキシン層の構造が異常になり、また花粉管の伸長にも異常が見られる。SHDのcDNAをSP11プロモーターとLAT52プロモーターにそれぞれつないでshd突然変異体に導入したところ、花粉管伸長はLAT52:SHDにより回復したが、エキシンの異常はいずれのプロモーターでも回復しなかった。エキシンの形成にはタペート細胞と花粉の両方でSHDの発現が必要なのかもしれないし、SP11やLAT52よりもっと早い時期での発現が必要なのかもしれない。