抄録
サイトカイニン(CK)はアデニンのN6位にイソプレノイド側鎖が結合した構造を基本骨格としており、側鎖は代謝の過程で水酸化や還元、異性化反応により修飾される。シロイヌナズナにおける主要なCKは側鎖が修飾されていないイソペンテニルアデニン(iP)型CKと水酸化されたトランスゼアチン(tZ)型CKである。これまでiP型CKからtZ型CKへの水酸化の過程が生理的に何らかの意味を持つか否かはほとんど議論されてこなかった。我々はCK水酸化の生理的な意味を明らかにする目的で、シロイヌナズナにおけるCK水酸化酵素CYP735A1およびCYP735A2の遺伝子欠損変異株の解析を行った。野生株ではiP型CKとtZ型CKがほぼ1:1の比で存在していたのに対し、cyp735a1およびcyp735a2においてはtZ型CKの蓄積量が野生株の80%程度に減少していた。cyp735a1/cyp735a2においてはtZ型CKが野生株の3%以下に減少し、iP型CKが野生株の約2倍、全CKの95%以上を占めていた。この結果は二つの酵素がシロイヌナズナにおけるCK水酸化活性の主要な部分を担っていることを示唆している。cyp735a1およびcyp735a2では野生株と形態上の差異はみられなかったがcyp735a1/cyp735a2においては植物体の大きさや花茎の数に差がみられており、現在表現形の詳細な解析を進めている。