抄録
チロシン硫酸化は高等動物の分泌型タンパク質・ペプチドに広く見られる翻訳後修飾のひとつであるが,高等植物ではPSKが唯一の例である.シロイヌナズナT-87細胞のゴルジ膜画分にはチロシン硫酸化酵素活性が明確に検出されることから,他にも硫酸化ペプチドやタンパク質が存在する可能性は十分考えられるが,リン酸化ペプチドのような選択的濃縮システムがないために,硫酸化ペプチドの網羅的な解析はこれまで動物を含めて全く行なわれていない.今回我々は,硫酸イオンの陰イオン交換体に対する強いイオン選択的相互作用に基づいて,硫酸化ペプチドを選択的に濃縮・解析するシステムを確立したので報告する.硫酸イオンのように,電荷が大きく水和イオン半径の小さいイオンは,その大きなクーロン相互作用により,陰イオン交換体へ強く保持される.また,硫酸化ペプチドは,LC-MSにおいて分子イオンピークと硫酸基の脱離したフラグメントイオンピークの両方が同時に検出される特徴を示すため,容易に他の分子と区別できる.実際に,BSAのトリプシン消化物とモデル硫酸化ペプチドの混合物を用いて,この手法が硫酸化ペプチドの濃縮・同定に有効であることを検証した.この手法を用いてシロイヌナズナT-87細胞培養液を分析したところ,いくつかの新規硫酸化ペプチドが検出された.現在,その配列解析および機能解析を行なっている.