抄録
タバコ(Nicotiana tabacum)の主要アルカロイドであるニコチンは防御物質としての役割をもつ。葉における虫害シグナルが根に伝達され、ジャスモン酸を介したシグナル系により、根でニコチン生合成が活性化される。生合成されたニコチンがどのような機構を介して細胞外へ排出、転流されるかは不明である。
我々はmultidrug and toxic compound extrusion (MATE) family のトランスポーターと相同性をもつNtMATE1, NtMATE2の解析を進めている。これら2つの遺伝子の遺伝子発現様式はニコチン生合成酵素遺伝子の発現様式と非常に類似していることより、NtMATE1/2はニコチン生合成細胞で機能するトランスポーターであると考えている。
メチルジャスモン処理を行った野生型およびNtMATE1過剰発現BY-2細胞におけるニコチンの輸送を観察したところ、野生型と比べて培地中へのニコチンおよびニコチン類縁体の排出量が増大していた。またRNAi法によって発現抑制を行ったタバコ植物体では、葉に蓄積しているニコチン含量が低下し、根では増大する傾向が観察された。
抗NtMATE1抗体を用いた研究からNtMATE1は液胞膜への局在性が確認されたことから、NtMATE1はニコチン生合成組織において液胞からニコチンを排出し、地上部への転流および根圏土壌への排出を促進していると推定している。
形質転換体を用いてNtMATE1の担う輸送機構を明らかにするための解析を現在進めている。