抄録
アサガオはオゾン感受性が高いことが知られている。特に、品種スカーレットオハラ(SO)は高感受性で、野外で80ppb程度のオキシダントに数時間暴露されると翌日に葉に明瞭な可視障害を生じることから、1970年代から光化学オキシダントの指標植物として広く用いられてきた。ところが、アサガオのオゾンによる障害の機構については全く調べられていなかった。オゾンの植生に対する影響を把握するためには、鋭敏な指標植物であるアサガオを用いて、分子的メカニズムに裏付けられた正確な実態調査を行うことが有意義であると考え、そのオゾン応答機構の解明に着手した。200ppbのオゾンに9時間暴露したアサガオ(SO)葉では、可視障害の出現にともなって傷害ホルモンのエチレンの生成量が上昇した。一方、エチレンの作用阻害剤である1-methylcyclopropeneを前処理してオゾン暴露を行ったところ、100ppbオゾンでは未処理の個体と比べ可視障害の軽減が観察されたが、200ppbオゾンでは可視障害の軽減は認められなかった。また、オゾン暴露中にアスコルビン酸含量の低下が見られた。これらのことから、アサガオ葉ではオゾンストレス時に発生するエチレンの細胞死の促進への関与は限定的であることと、酸化的ストレスにより抗酸化能の低下が起きていることが示唆された。現在、オゾン応答に関連する遺伝子の発現を解析中である。