抄録
我々は、パルプ特性に優れた遺伝子組換えユーカリの作出を目的とし、木繊維形成過程の遺伝子発現制御機構の解析を行っている。既にマイクロアレイ解析によってユーカリにおける木繊維細胞のセルロース・リグニン合成、伸長に関わる遺伝子群とその制御に関わる転写因子群の候補を選抜した。これら遺伝子群のプロモーターと転写因子の相互作用を解析している。
これまで、in vitroでの DNA-タンパク質相互作用の解析は、ゲルシフトアッセイなどが行われてきたが、本実験では、これまで以上に迅速かつ大量に解析できる手法として一分子蛍光分析法を用いた。本方法は、蛍光標識したDNA断片とタンパク質が溶液中で結合することによる分子運動(並進時間と呼ぶ)の変化から、相互作用の有無をみるものである。実験系を検証するために、解析済みのモデル系としてシロイヌナズナのrd29AプロモーターのDRE配列を含むDNA断片と、転写因子DREB1Aを用いた。その結果、両者が共存する時のみに並進時間の増加が見られた。これらの実験から、一分子蛍光分析法は転写因子と結合するプロモーターのシス配列の特定に、迅速かつ大量に解析する手法として有用であると考えられた。今後、この方法を用いて、ユーカリ木繊維形成遺伝子群のプロモーターと転写因子との相互作用解析を網羅的に行っていく。