抄録
我々はこれまで特定のキチン断片がイネの細胞に強いエリシター活性を持ち、さまざまな生体防御応答を引き起こすことを明らかにしてきた(N. Shibuya & E. Minami(2001)Physiol. Mol. Plant Pathol.)。この防御応答には、糖の構造と重合度を厳密に識別する受容体様タンパク質の存在が想定され、125I標識したキチンオリゴ糖を用いる親和性標識実験の結果からイネ原形質膜にはこのエリシターに対する高親和性結合タンパク質があることを発見した(Y. Ito et al. (1997)Plant J.)。このキチンオリゴ糖エリシター結合タンパク質(Chitin Elicitor-Binding Protein:CEBiP)はキチンオリゴ糖を固定化したカラムにより精製し、その部分アミノ酸配列情報に基づいて遺伝子をクローニングした。RNAiを利用したCEBiPノックダウン系統の形質転換細胞ではキチンオリゴ糖エリシターによる活性酸素誘導や種々の遺伝子発現誘導が大幅に抑制され、CEBiPが実際にエリシター認識・シグナル伝達の鍵となる分子であることが証明された。一方、CEBiPはアミノ酸配列から予測される構造からは、単独で細胞内へのシグナル伝達を行うのではなく、別の何らかのパートナー分子と複合体を形成してシグナル伝達を行っている可能性が推定された。こうした分子に関しては現在その探索を進めている。