抄録
開花は花弁の急速な伸長によって実現されるが、シロイヌナズナではこのとき雄しべの伸長が葯の裂開を伴って同時に起こり、葯が成熟した柱頭に接触して自家受粉が起こる。近年、この雄しべと花弁の同調した伸長および葯の裂開に、ジャスモン酸(JA)の働きが重要であることが明らかになってきた。しかし、JAを介したどのような分子メカニズムが雄しべと花弁の伸長、葯の裂開に関わっているかは依然として未解明な点が多い。
そこで我々は、雄しべと花弁の伸長の同調性が乱れる、つまり野生型と比較して雄しべの伸長時期が早まり、花弁の伸長が抑制されるdefective coordination1(deco1)突然変異体を単離した。走査型電子顕微鏡観察から、これらの器官伸長の異常は細胞伸長の異常によることがわかった。また、deco1の花序におけるJA量は野生型の約30%にまで減少しており、これが花弁の伸長が抑制される原因であると推定された。ポジショナルクローニングをおこなったところ、DECO1は機能未知のシトクロームP450モノオキシゲナーゼをコードしていることが明らかになった。さらにDECO1プロモーターとGUS融合遺伝子を作製し、野生型植物体に導入して解析したところ、開花時における発現は花糸特異的であることがわかった。
以上の結果は、DECO1は花糸においてJAの生合成、もしくは代謝(酸素添加)にかかわっており、この経路が花弁伸長に重要な役割を果たしていることを示唆している。