抄録
花粉の形成には花粉の中で働く遺伝子だけでなく、タペート細胞をはじめとする葯壁の細胞で発現する遺伝子の働きも重要である。SHEPHERD (SHD) は小胞体に局在するHsp90型の分子シャペロンをコードする遺伝子で、その突然変異体shdは雄性不稔性を示し、花粉の表層を構成するエキシン層の構造に異常が見られる。野生型とshdとのヘテロ個体に生じた花粉ではその全てで正常なエキシンを形成することから、エキシンの形成には胞子体側のタペート細胞におけるSHDの発現が必要と思われた。そこでSHDのcDNAをタペート細胞特異的なSP11プロモーターとFBP1プロモーターにそれぞれにつないでshdに導入したところ、FBP1pでのみエキシンの構造が回復した。従ってエキシンの形成にはFBP1pのみで発現が見られる花粉四分子期のタペート細胞におけるSHDの発現が必要であり、SHDはタペート細胞からの一次エキシン構成成分の分泌に関与していると推測される。
shdでは花粉管の伸長にも異常が見られる。SHDのcDNAを花粉特異的なLAT52プロモーターにつないでshdに導入したところ、花粉管伸長と稔性の回復が見られた。従ってSHDはその機能から成熟花粉における花粉管構成成分の分泌に関与していると推定される。しかし形質転換体のエキシンは異常なままで、逆に前述のFBP1p:SHDでは花粉の稔性は回復していなかった。これは稔性の回復にエキシンの構造はそれほど重要でないことを示唆している。