抄録
温度は種子発芽の季節を決定する主要な環境シグナルである。冬型一年性草本であるシロイヌナズナの種子発芽は吸水時の高温条件で抑制される(高温阻害)。私達は、シロイヌナズナ種子の高温阻害には吸水後の新たなABA合成が必要であることを見出し、ABAの前駆物質であるカロテノイドの酸化開裂を触媒するNCED2 , 5, 9遺伝子の発現が高温条件で高まることを示した。これらのNCED遺伝子の生理的機能を明らかにするため、T-DNA挿入突然変異種子の発芽を調べたところ、野生型(Col)種子の発芽がほぼ完全に抑制される34℃において、NCED9遺伝子に挿入変異を持つ種子(nced9)は高い発芽率を示したが、nced2およびnced5突然変異種子は明確な高温耐性を示さなかった。そこで、これらの二重変異を作成して高温条件での発芽を調べたところ、nced5nced9は両親よりさらに高い発芽率を示したが、nced2nced9はnced9と、nced2nced5は両親と同程度の発芽率を示した。また、nced2nced5nced9三重変異体はnced5nced9二重変異体と同程度の高温耐性を示した。したがって、シロイヌナズナ種子の高温阻害には、NCED9とNCED5遺伝子の高温による転写産物量の調節が重要な役割を持ち、NCED5とNCED9はunequally redundantな関係にあると考えられた。