抄録
冠水条件にさらされたイネでは、内生エチレン濃度が急激に増加する。次いで、ABA量が減少し、GA量が穏やかに増加することで節間伸長や葉の伸長が引き起こされることが知られているが、その詳細な分子機構は明らかでない。日本型イネ品種日本晴を用いて冠水時におけるABA量とその代謝産物を分析した結果、ABA量の減少に伴い、ABAの代謝産物であるファゼイン酸(PA)の増加が観察された。この結果から、冠水後におけるABA量の減少はABA 8’位水酸化経路によって引き起こされていることが示唆された。イネのABA 8’位水酸化酵素をコードすると推定される3つのOsABA8ox遺伝子(OsABA8ox1,2,3)の発現を調べた結果、OsABA8ox1 mRNA量が冠水直後に劇的に増加していることが明らかとなった。冠水時に見られるOsABA8ox1 mRNA量の増加がエチレン依存的であるかを確かめるために、好気中でエチレンやACC処理を施した結果、OsABA8ox1 mRNA量が増加し、同時に、ABA量の減少とPA量の増加が観察された。さらに、エチレン受容体阻害剤処理を施したイネでは、冠水時におけるOsABA8ox1 mRNA量の増加が抑えられ、ABA量の減少抑制が観察された。この結果から、冠水時における内生ABA量の減少はエチレン依存的なABA不活性化酵素の発現制御によるものであることが明らかにされた。