抄録
色素体において、mRNAの安定性制御は遺伝子発現の重要な調節機構である。緑藻クラミドモナス葉緑体形質転換体Δ26pAtEでは、葉緑体のATP 合成酵素の βサブユニットをコードするatpB mRNAが強制的にポリアデニル化される。葉緑体でポリアデニル化はmRNA不安定化のシグナルとして機能するため、atpB mRNAは速やかに分解され、その結果Δ26pAtEは光合成能を失っている。我々はこの変異体を出発点としたサプレッサースクリーニングにより、葉緑体mRNA安定性制御機構の解析を行った。
得られた変異体のうち、spa19/23変異体は二つの異なる葉緑体ゲノム(PS+, PS-)をもっていた。遺伝学的解析および、鎖特異的なRT-PCR、S1ヌクレアーゼプロテクション法、ノーザン解析など一連の分子解析の結果、PS-ゲノムからポリアデニル化された不安定なatpB mRNAが転写される一方で、PS+ゲノムからはatpB mRNAの3’部位に対するアンチセンスRNAが転写され、両者が二重鎖RNA構造を形成して3’→5’RNaseを阻害し、上流のmRNAを保護することが示唆された。これを証明するため、アンチセンスRNAを形質転換により導入したところ、atpB mRNAの安定化が確認された。以上の結果から、葉緑体においてアンチセンスRNAがmRNAを安定化し得ることが示された。