抄録
渦鞭毛藻類のうち、サンゴのような海産無脊椎動物と共生しているものは「褐虫藻」と総称されている。共生状態の褐虫藻は、球形の細胞形態を示すことが知られている。一方、単離培養状態の褐虫藻は遊泳性を有し、卵形の細胞形態を示すことがKawaguti(1944)によって報告されている。この細胞形態変化を伴う遊泳性の発現が起きるメカニズムは不明のままである。本研究では、褐虫藻の単離培養株Symbiodinium microadriaticum CCMP829を用いて、培地中の窒素態が褐虫藻の運動性に与える影響について調べた。0.1から1mMの異なる濃度の硝酸態窒素(NO3-)、あるいはアンモニア態窒素(NH4+)を培地に加え培養をおこなった。両方の窒素態を加えない培地を比較対象として用いた。各培地を用いて4週間の培養をおこなったところ、培養開始から3日目以降に遊泳細胞が観察された。光学顕微鏡下で細胞数を計測し、総細胞数に対する遊泳細胞の割合を算出した。その結果、遊泳細胞の割合は、培地中のNO3-濃度に比例することが明らかとなった。この比例関係は、4週間の培養期間中に消失していた。これらの結果は、褐虫藻の遊泳性の発現が、NO3-によって誘導されることを示唆している。実験結果を踏まえ、窒素態による褐虫藻-サンゴ共生系の制御システムについて考察する。