抄録
植物は窒素源として主に硝酸イオンを利用している。我々は相同組み換えによる遺伝子機能解析が容易に行えるヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)を材料として硝酸イオン輸送に関する研究を行い、硝酸イオン能動輸送体の本体であるNRT2の遺伝子8個(PpNRT2;1-PpNRT2;8)を同定した。これらのうち、PpNRT2;5は定常状態においては全体の3-6%と少ない発現量であるものの、アンモニア培地から硝酸イオンまたは亜硝酸イオンを含む培地に移した際に最も早く誘導される点および発現に硝酸イオンまたは亜硝酸イオンが必須であるという点で特異であった。PpNRT2;5を相同組み換えによって破壊した株(ΔNRT2;5)は硝酸イオンを唯一の窒素源とする培地で正常に生育したが、アンモニア培地から低濃度の硝酸培地、亜硝酸培地に原糸体を移した後の硝酸イオンと亜硝酸イオンの吸収の誘導が遅く、吸収速度も低下していた。この結果は、PpNRT2;5が硝酸、亜硝酸同化活性の誘導初期に重要な役割を担っていることを示唆するものである。