抄録
高等植物の硝酸同化において亜硝酸がアンモニアに還元される過程には細胞質から葉緑体への亜硝酸の能動輸送が含まれる。我々はこの亜硝酸輸送に働くトランスポーター(CsNitr1-L)を初めてキュウリ葉緑体包膜に見出した。このトランスポーターの亜硝酸に対するKmは~0.1 mMで高親和型トランスポーターに分類される。Arabidopsisゲノムに1コピー含まれる亜硝酸トランスポーター遺伝子のT-DNA変異株は高い濃度の亜硝酸を蓄積し窒素欠乏の表現型を示すが硝酸のみをN源としても正常に生育する。亜硝酸の吸収を種々の亜硝酸濃度で調べると、低濃度域での亜硝酸の吸収効率はT-DNA変異株では明らかに減少していたが、しかし、野生型では蓄積することのない高濃度域の亜硝酸では野生型よりも高い吸収速度を示した。この結果は葉緑体には野生型の植物に見られる10 μMオーダーの濃度の亜硝酸の吸収に関与する高親和型のトランスポーターに加えて、亜硝酸の蓄積によって誘導される低親和型の亜硝酸輸送があることを示した。