抄録
280-320nmの波長領域の光(UV-B)は,環境ストレスとして植物に様々な影響を及ぼす。我々はこれまでに,キュウリ子葉の表面において先端が尖ったトライコームと球状のトライコームの二種類の存在を確認し,UV-B照射は,先端が尖ったトライコームの基部の細胞分裂を促進することを明らかにした。また,先端が尖ったトライコームのみトルイジンブルーOで染色される。このことから,先端が尖ったトライコームにはポリフェノール化合物が蓄積することが考えられる。本研究では,先端が尖ったトライコームにおけるポリフェノール化合物の蓄積に及ぼすUV-Bの影響を,トルイジンブルーO染色と,蛍光顕微鏡を用いた自家蛍光の観察によって解析した。その結果,UV-B照射によって,トルイジンブルーOの染色部位は,先端が尖ったトライコームを中心として周辺の表皮細胞の細胞壁まで拡大した。自家蛍光を示した領域は,トルイジンブルーOの染色部位とよく一致した。以上のことから,UV-B照射は,先端の尖ったトライコームを中心として周辺の表皮細胞にポリフェノール化合物の蓄積を誘導することが組織学的に明らかになった。一方でUV-B照射は,キュウリ子葉のリグニン含量を増加させた。そのため,キュウリ子葉に対するUV-B照射は,先端の尖ったトライコームを中心として周辺の表皮細胞に,ストレス誘導性のリグニンを蓄積する可能性がある。