抄録
私たちは植物の分化全能性発現の仕組みを明らかにするためにヒメツリガネゴケをモデルとして解析している。ヒメツリガネゴケは植物の中でもとりわけ高い再生能力を持ち、切断処理によって生じた葉細胞は数日以内に幹細胞化する。そこで私たちは長時間タイムラプス観察と多検体画像取得が可能な多点タイムラプスイメージングシステムを開発し、葉細胞の幹細胞化は切断面に面した細胞が不等分裂して生じることを明らかにした。葉細胞から生じた細胞のその後の発生過程は胞子発芽後の発生様式と区別できず、葉細胞がリプログラミングされ初期発生過程を繰り返していると考えられる。また、単色光照射による実験と青色光受容体であるクリプトクロム遺伝子破壊株を用いた実験から、葉細胞の幹細胞化は光依存的でありフィトクロム、クリプトクロムを介して起きることが明らかになった。さらに、葉細胞の核の大きさを核酸固定染色により調べたところ、切断処理後24時間以内に核の膨潤が認められた。現在、葉細胞の幹細胞化に伴うDNA量の変化を測定し核の膨潤と細胞周期との関係を調べている。