抄録
植物の幹細胞は継続的に様々な分化細胞系列につながる娘細胞を産生する。そして、それらの娘細胞は最終分化細胞へと成熟していく。ただし、最終分化細胞であっても、特定の環境下では幹細胞へと分化転換する能力を持ち続けている。私たちはヒメツリガネゴケにおける最終分化細胞である葉細胞が分化転換を経て幹細胞化する過程を植物の分化全能性発現のモデル系としてとらえ、トランスクリプトームを中心にした網羅的な解析を進めている。これまでに、この分化転換に関係する可能性のある光受容・情報伝達関連遺伝子、細胞周期制御、エピジェネティク制御、植物ホルモン関連遺伝子群、及び転写因子遺伝子群等を含んだ約10,000遺伝子からなる発現アレイを作成し、分化転換過程における経時的発現解析を行なった。その結果、分化転換に伴い特徴的な発現パターンを示す遺伝子群を同定した。
さらに、分か転換過程におけるエピジェネティク制御の中で、特にヒストン修飾の関与について検討するための実験系の構築を行なった。これまでに他の生物種とのヒストンコードの比較をする目的で、シロイヌナズナ及びヒメツリガネゴケを材料にして、各種抗メチル化又は抗アセチル化ヒストン抗体を用いた特定遺伝子群に対するChIP (クロマチン免疫沈降)-PCR解析を行なった。現在、分化転換過程におけるヒストン修飾のゲノムワイドな動態変動の解析を行なっている。