抄録
多細胞生物は、幹細胞の不等分裂により幹細胞自身を複製すると同時に、分化した非幹細胞を生み出し多細胞体制を作り上げる。このような幹細胞の不等分裂により異なる運命をもつ娘細胞が生み出される過程では特定のmRNAやタンパク質が不均等に分布することが重要な役割を果たしている。しかしながら植物幹細胞の不等分裂過程において、どのタンパク質がいつ、どのように不均等分布をするのかについてはまだよくわかっていない。そこで我々は、ヒメツリガネゴケから単離したプロトプラストが不等分裂する幹細胞であることに注目し、植物幹細胞の不等分裂の制御機構ならびに細胞運命の制御機構の解明をめざし研究を進めている。
これまでに、ヒメツリガネゴケ完全長cDNAをプロトプラストに一過的に過剰発現させるスクリーニングを行い、不等分裂制御に関わると考えられる遺伝子58種類を報告している。次に、これら遺伝子産物が不等分裂の際にどのような局在変化を示すのかを調べる目的で、これら候補遺伝子に対して、遺伝子ターゲティングにより黄色蛍光タンパク質シトリン遺伝子をノックインした形質転換体を作成し、内在性プロモーター制御下におけるシトリンとの融合タンパク質の局在解析を行った。その結果、非幹細胞に比較して幹細胞で強く発現する遺伝子産物を9種類同定することができた。これらの中には植物特異的な転写因子や機能未知なタンパク質が含まれていた。