抄録
単子葉植物は,被子植物の進化の初期に,基部双子葉植物の系統から派生し,その後,独自の形態を進化させてきた.とりわけ葉は,単子葉植物とその他の植物系統群の間で,大きく異なる構造,発生様式を示す.それらの相同性等に関しては,古くから比較発生学的研究が行われてきたものの,未だ明確な結論は得られていない.我々は,単子葉植物における葉の構造や,その形態進化を遺伝子レベルで明らかにするために,単面葉といわれる葉を持つ単子葉植物に着目し,分子遺伝学的研究を開始した.
単面葉とは,葉身の外側が全て背軸面(裏側)だけで構成される葉のことであり,葉の極性変化をともなって進化した,興味深い形質である.この単面葉という形質は,基部単子葉植物から,特殊化の進んだ系統群まで,単子葉植物の幅広い系統で何度も独立に進化しており,単子葉植物の葉の基本的性質を反映した形質であると考えられる.また,予備的解析により,この単面葉においては,向背軸はもとより,頂部基部軸,そして,中央辺縁軸にも,大幅な極性変化が起きていることが明らかになっている.したがって,通常の葉(両面葉)を持つ植物との比較解析により,単子葉植物の葉の,全ての極性制御機構を解析できると考えられる.本報告では,主に組織学的解析により得られた,単面葉の発生機構,そして,単子葉植物の葉のオーガニゼーション解明にむけた,分子遺伝学的アプローチに関して報告する.