抄録
キュウリ・トマトの胚軸を用いた以前の我々の研究から、傷をつけた胚軸の皮層は切断後7日間で癒合すること、癒合過程の細胞分裂に葉からのジベレリン(GA)が必要であることが示されている。しかし、組織癒合の分子メカニズムに関しては、ほとんど明らかになっていない。本研究では、シロイヌナズナを用いて、切断花茎の組織癒合過程の形態学的、分子生物学的解析を行った。花茎の第一節間を直径の約半分切断し、癒合過程を観察したところ、約10日目でほぼ癒合が完了した。また、茎頂と茎生葉を切除することによって組織癒合が阻害されたが、GA欠損変異体、およびGA生合成阻害剤の処理個体では、通常の組織癒合が観察された。この結果、シロイヌナズナ切断花茎の癒合にGAは関与しないことが示された。次に、組織癒合過程のマイクロアレイ解析を行い、癒合過程中に発現変動する遺伝子を同定した。これらの遺伝子には、細胞分裂・伸長や細胞壁多糖の代謝、植物ホルモンに関わる遺伝子が含まれていた。また、切断後1日目の花茎において、ACC合成酵素遺伝子の発現上昇が確認されたことから、エチレン非感受性変異体を用いて同様の解析を行ったところ、組織癒合が抑制されていた。これらの結果より、切断花茎の組織癒合において、エチレンが重要な役割を担っていることが考えられた。また、XTH遺伝子の発現解析から、細胞壁多糖類の構造変化が生じている可能性が考えられた。