抄録
種子植物のチラコイド膜脂質合成には2つの経路が存在する。1つの経路では、色素体で合成された脂肪酸が一度小胞体に運ばれた後、グリセロ脂質前駆体であるフォスファチジン酸(PA)に取り込まれ、再び色素体に戻ってチラコイド膜のガラクト脂質合成に用いられる(真核型経路)。もう1つの経路では、脂肪酸が色素体内でグリセロール骨格に取り込まれ、ガラクト脂質合成に用いられる(原核型経路)。これらのうち、真核型経路が阻害された変異株をシロイヌナズナから単離したところ、チラコイド膜脂質の合成が原核型経路に依存するようになった。また、これらの変異株では葉においてトリアシルグリセロール、トリガラクトシルジアシルグリセロール(TGD)の蓄積が観察されことから、tgd変異株と名づけられた。tgd変異遺伝子座の1つ、TGD1はバクテリアのマルチサブユニット型ABCトランスポーターの膜貫通タンパク質をコードしていた。また、TGD2はバクテリア型ABCトランスポーターの基質結合タンパク質と相同性を持ち、色素体内包膜に局在していた。TGD2のC末端基質結合領域を用いて脂質結合解析を行ったところPAを特異的に結合することがわかった。これらのことから、TGD複合体は色素体外包膜から内包膜へのPAの輸送に関与していると考えられた。