抄録
海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutumの葉緑体内、ガードルラメラ上に顆粒を形成し、葉緑体内の溶存無機炭素バランスを調節していると考えられるカーボニックアンヒドラーゼ、PtCA1は、培養液中のCO2が上昇すると発現抑制される典型的なCO2応答性タンパク質である。本研究では、この遺伝子ptca1のプロモーター配列Pptca1をモデルとして、海洋性珪藻が海洋表層でCO2濃度を感知する機構を探った。すでにCO2応答に必要なコア領域であることが示されているPptca1の-70bpより下流領域に存在する3つの推定シスエレメント(CRE1、p300結合配列、及びCRE2)を削除或いはアンチセンス置換したコンストラクトを作成し、これをGUSレポーター遺伝子uidAに繋いだ。P. tricornutum細胞をホストとしてこれら改変Pptca1のloss of function実験を行った結果、CRE1およびp300結合配列が高CO2環境下でPptca1を抑制するために必要であることが分った。さらに、cAMPアナログ及びcAMP分解酵素阻害剤を用いて、細胞質のcAMP濃度を高める処理により内在ptca1の発現が低CO2環境下でも抑制され、また、この抑制効果はCRE1の削除によって消失することが分った。CO2センシング機構のセカンドメッセンジャーとしてのcAMP代謝について議論する。