抄録
多くの水生光合成生物は、光合成に必要な無機炭素が不足すると、能動的に無機炭素を細胞内に取り込む無機炭素濃縮機構(CCM)を誘導する。緑藻クラミドモナスにおけるCCMの発現誘導には、制御因子CCM1が必須であるがその生化学的実体は未解明である。今回、CCM1タンパク質のN末端側に存在する亜鉛結合ドメインについて、亜鉛結合性とその重要性を解析し、さらにCCM1の細胞内存在様式について検討したので報告する。
亜鉛結合部位を1カ所含むCCM1のアミノ末端側71アミノ酸残基の領域、2カ所含む101アミノ酸残基の領域をそれぞれGST融合タンパク質として大腸菌で発現させた。精製したタンパク質の結合亜鉛を原子吸光法で定量した。N末端側71アミノ酸残基の領域には亜鉛が1原子、101アミノ酸残基の領域には2原子結合していた。さらに、この領域中のHis-54残基をTyrに置換したところ、亜鉛結合性が失われた。His-54がTyrに変異した株cia5ではCCMが誘導されないので、細胞のCO2応答性には、CCM1に亜鉛が結合する必要があると考えられた。また、ゲル濾過クロマトグラフィー、抗体免疫染色法によりCCM1の存在様式を解析した。CCM1は細胞内で核に局在し、複合体を形成すると考えられる。