抄録
円石藻はハプト植物門に属する単細胞石灰藻である.代表種であるEmiliania huxleyiは,広範な海洋での大増殖(ブルーム)を引き起こし,中生代白亜紀以降の地球規模の炭素循環に影響を与えてきた.E. huxleyiの増殖制御機構の解明には,生育の基礎となる光合成炭素代謝系の解析が不可欠である.そこで,本研究では,14CO2を基質としたトレーサー実験による光合成初期産物の解析と,鍵酵素の特性解析を試みた.
光合成初期産物を解析した結果,カルビン-ベンソン回路の中間体と考えられる糖リン酸化合物に加え, C4アミノ酸であるAspなどが多く生じることを見出した.これは,C3化合物にCO2(HCO3-)を付加してC4化合物を生じるβ-カルボキシレーション活性が高いためと考えられた.そこで,β-カルボキシレーション酵素のcDNA配列をESTライブラリから検索した結果,ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)とピルビン酸カルボキシラーゼ(PYC)の相同配列を見出した.明暗条件下で両酵素のmRNAの発現量を比較した結果, 光照射下でPEPCKの発現は抑制され,PYCの発現は顕著に増加した.さらに,PYCの全長cDNAの配列解析の結果,予測されるアミノ酸配列のN末端部に葉緑体移行シグナルが存在することが明らかになった.以上の結果より,E. huxleyiでは,葉緑体局在のPYCによるβ-カルボキシレーションが,光合成炭素固定に大きく寄与していると結論した.