抄録
植物には一般に頂芽が存在すると腋芽の伸長が抑制されるという現象が存在し、これを頂芽優勢と言う。頂芽からのオーキシンが腋芽の伸長に対して抑制的に働くことは古くから知られている。しかしながらオーキシンがどのように腋芽に作用しているのかはよく分かっていない。我々はイネにおける頂芽優勢機構の解明をめざし、分子レベルでの解析を行っている。イネにおいても頂芽を取り除くことによって腋芽の伸長が促進された。さらに、切断面からオーキシンを与えると頂芽優勢が維持されたことから、今まで研究されてきた双子葉植物と同様に、イネにおいても頂芽からのオーキシンが頂芽優勢の維持に働いていると考えられた。
イネのd3、d10、d14、d17、d27の5つの変異体はどれも頂芽優勢が低下している。d10の原因遺伝子D10は、カロテノイド切断酵素をコードするMAX4/RMS1のオーソログであった。MAX4/RMS1は腋芽の伸長を阻害するホルモン様物質(Shoot multiplication signal, SMS; Beveridge, 2006)の代謝に関わっている。d10変異体では頂芽の存在に関わらず、腋芽が著しく伸長する。また外生的にオーキシンを与えることによって、D10のmRNAが顕著に蓄積した。以上の結果からオーキシンの二次メッセンジャーとしてD10およびSMSが働いている可能性について考察する。