抄録
コムギ根におけるアルミニウム(Al)耐性は、根端でのAl活性化型のリンゴ酸トランスポーター(ALMT1)遺伝子の発現量に支配されることが示唆されていた。本研究では、ALMT1遺伝子上流域をクローニングし、その構造についてAl耐性度の異なる系統間で比較解析した。代表的なAl耐性の2系統ET8とAtlas 66では、ALMT1上流域において280 bpが3つの繰り返しになっており、感受性の2系統ES8とScout 66ではその領域は1つであった。そして、中間の耐性をもつChinese Springではこの280 bp領域を含む803 bpが2つ繰り返しになっていた。さらに多数のコムギ系統でAl耐性度と繰り返し配列の関係を解析した結果、日本以外の育種系統には、6種のパターンの異なるALMT1上流配列が存在し、その繰り返しの回数がAl耐性度ならびに遺伝子発現量と正の相関を示した。従って、この繰り返し配列がALMT1遺伝子の高発現に関与することが強く示唆された。一方で、日本の育種系統では2種類の上流配列のみが見られ、発現量やAl耐性との相関は低かった。しかし、Alで活性化されるリンゴ酸放出量とはAl耐性度とは正の相関を示したことから、日本のコムギ系統においてもリンゴ酸放出量がAl耐性に関与するものの、ALMT1遺伝子の転写以外の調節要因も関与する事が示唆された。