抄録
気孔の開閉は気孔を取り囲む孔辺細胞への水分の出入りによる細胞体積の増減により生じる。孔辺細胞体積の大部分は巨大液胞が占めており、気孔開閉における液胞の構造とその体積変化との関連が示唆されていたが、その詳細は未解明であった。前回我々は、GFP-AtVam3pを発現することで液胞膜を可視化したシロイヌナズナの形質転換体の孔辺細胞を用いて液胞構造の動態を観察し、気孔開閉時には液胞が陥入やバルブ状構造を形成し、液胞膜を折りたたみながら収縮することを報告した。また、複雑化した形状にもかかわらず、収縮時の液胞は細分化されずに、連続性を保っていた。一方、我々が開発したソフトウェアREANTを用い、液胞の立体構築を行い、表面積と体積の変化を算出した結果、気孔閉口時の液胞体積は減少するが、表面積は逆に増大することが判明した。同時に計測した細胞膜の表面積の減少量が液胞膜の増大量に近似していたことから、今回は気孔閉鎖時の増加した液胞膜成分の起源について検証した。膜小胞輸送に関わると予想されているホスファチジルイノシトール3キナーゼの活性を阻害したところ、気孔閉鎖と共に液胞構造の複雑化も阻害された。また、ソラマメの孔辺細胞をFM4-64で染色した後ABAで処理したところ、FM4-64蛍光の細胞膜から液胞膜への移動が促進された。これらのことから気孔閉鎖過程では余剰となった細胞膜成分が液胞膜に取り込まれる可能性が示唆された。