抄録
高等植物にとって生長は基本的かつ重要な生理現象であり,分裂後の細胞の体積増加が個体全体の生長量の大部分を決める.成熟した組織では,細胞体積の約9割を占める巨大なオルガネラである液胞が存在し,液胞の発達は植物細胞の肥大に深く関与すると考えられる.しかし,植物細胞の生長に伴う巨大液胞構造の発達過程には不明な点が多い.
我々は,液胞が吸水により体積を増加させることから,水の膜輸送を担う実体である液胞膜型アクアポリンの発現・生理機能の解析を行なった.まず,通常のタバコBY-2培養細胞において液胞発達過程を同調的かつ詳細に追跡できるミニプロトプラスト培養系を用いて,タバコBY-2液胞膜型アクアポリンNtγTIPの発現を解析した.細胞から巨大液胞を遠心分離によって除去したミニプロトプラストにおいて,液胞は培養6時間目には網状液胞として発達し始め,培養12時間目には液胞内腔が膨らんだチューブ状液胞を経て巨大液胞へと発達する.この液胞発達過程において,NtγTIPは網状液胞からチューブ状液胞への移行時と巨大液胞発達時に発現が上昇した.次に,GFPとNtγTIPとの融合タンパク質をマーカーにして液胞の発達過程を追跡したところ,NtγTIP過剰発現細胞ではコントロールと比較してチューブ状液胞や巨大液胞への発達の促進が見られた.以上の結果から,NtγTIPは液胞の発達に関与している可能性が示唆された.