抄録
葉の老化過程やストレス条件下において蓄積する活性酸素は、タンパク質分解の引き金として機能している可能性が提案されている。先に私たちは、低温弱光下のキュウリ葉において、Rubiscoの大サブユニット(LSU)が活性酸素によって直接的に分解される事を報告した。本研究では、低温弱光下のLSU分解についての植物間比較を行い、その結果をもとにLSU分解をもたらす要因について解析した。低温感受性のキュウリ、インゲン、トマト、ダイズ、イネ、低温耐性のコムギ、ホウレンソウ、シロイヌナズナの葉切片に低温弱光処理を行ったところ、キュウリ、インゲンにおいてのみ、LSU分解が観察された。また、キュウリやインゲンではLSU分解に先立って、光化学系I反応中心サブユニットPsaBの分解が生じていた。さらにキュウリやインゲンでは、熱放散の劇的な増加、抗酸化酵素活性の低下、CO2やMg2+が結合していないフリーの不活性型Rubisco(E-form)の割合の増加が見られたのに対して、LSU分解が起こらないコムギやシロイヌナズナでは、熱放散の増加、抗酸化酵素活性の維持、E-formの割合の低下が見られた。以上の結果から、低温ストレス下の葉において活性酸素によるRubisco分解には、抗酸化酵素活性の低下、PsaBの分解、及びRubiscoがE-formで存在すること、の三つの要因が複合的に関係している可能性が示唆された。