抄録
常温で育てたイネ(あきたこまち)の幼苗全体を10°C前後の低温に曝しても、根の吸水抑制で葉が巻くものの、白化や枯死といった可視的な障害を起こすことはない。ところがこの時に根の温度を高く保つと、枯死に至るような顕著な障害が葉に起こり、またそれに先立ち光合成機能に著しい障害が起こることがわかった。この「高地温依存性低温障害」の基本特性を明らかにし、その原因解明の手掛かりを得る目的で、3葉期の幼苗に低気温/高地温(10°C/25°C)処理を明期(650 µmol·m-2·s-1)12時間/暗期12時間通して行い、クロロフィル蛍光解析等を行った。低温処理1日目の明期には低地温(10°C)との可視的な相違は認めらなかった。光合成能力(Fv/Fm、ΔF/Fm')の低下は高地温でやや大きかったものの低地温でも起こり、クロロフィル蛍光パラメータ等に低地温と高地温で質的な違いは認められなかった。しかし2日目の明期前に高地温の幼苗第3葉の光合成機能に大きな質的変化が起こり、明期になると光合成能力が急速に低下した。この状態の幼苗を常温に戻すといずれも第3葉に変色や白化を起こし、3日以内にはかなりの部分が枯れた。また低気温/低地温処理では水分含量と溢泌液量が著しく減少したが、低気温/高地温処理では常温時と変化が無かった。この高地温依存性低温障害では、光合成機能と根の吸水機能との間に密接な関係があることが示唆される。