抄録
PsbMは光化学系II複合体(PSII)の低分子量サブユニットの一つであり、その分子質量は約4 kDa、1回膜貫通へリックスを持ち、ラン色細菌から高等植物まで保存されている。ラン色細菌PSIIの結晶構造において、PsbMは二量体の中心位置、すなわち、2つの単量体の境界位置に存在し、このことからPsbMはPSII二量体の安定化に寄与することが推測される。PsbMの役割を明らかにするため、我々はPsbMを欠失させたThermosynechococcus vulcanus変異株からPSIIを精製し、ハンギング・ドロップ法によりその結晶化を行い、4.2Å分解能における結晶構造解析に成功した。野性株由来PSIIとの差フーリエ図から、変異株ではPsbMに対応する電子密度が欠けており、PsbMサブユニットが欠損していたことが確認された。イオン交換クロマトグラフィーによりPSII単量体と二量体の割合を調べたところ、野性株に比べ変異株では単量体の量が増えていたことがわかった。また、変異株由来のPSIIは単量体と二量体のいずれにおいても野性株に比べ酸素発生活性が低下していた。これらの結果から、PsbMはPSII二量体の安定化を維持することにより酸素発生活性の維持に寄与していることが結論付けられた。