抄録
PsbPは、高等植物や緑藻の光化学系II(PSII)酸素発生系Mnクラスター周辺のチラコイド膜ルーメン側に存在する膜表在性タンパク質である。これまでに我々の研究室ではRNAi法でPsbPの発現を抑制したタバコ(ΔPsbP株)を作出し、PSII最大量子収率の指標であるFv/Fm値の顕著な低下や生育の遅れ、そして特にMnクラスターの不安定化が生じる事を明らかにしてきた。これに加えてΔPsbP株では光化学系I (PSI)の量が極端に減少し、循環的電子伝達に関わるNDHやCyt b6/f複合体サブユニットの蓄積量が増加する。こうした現象は緑藻クラミドモナスのPsbP欠損株では認められない。そこで次にPSII内部の電子受容体であるQAとPSI反応中心クロロフィルであるP700の酸化還元状態を解析した。その結果、ΔPsbP株ではQAが還元されている状態でも、P700は酸化されており、高等植物ではPsbPの欠損がチラコイド膜電子伝達鎖全体に大きな変化を引き起こす事が示唆された。本発表ではΔPsbP株に関するクロロフィル蛍光と熱発光を用いた解析結果に加え、葉緑体遺伝子発現やチラコイド膜タンパク質複合体形成への影響も報告する。