抄録
珪藻は水域圏における主要な光合成生物種であるにもかかわらず、光化学系II複合体(PSII)についての詳細は明らかでない。最近、榎並らによって珪藻Chaetoceros gracilisから高い酸素発生活性を保持したPSII 標品が調製され、この標品には5種類の表在性タンパクが結合していることが明らかになった。これらの表在性タンパクについてN末端アミノ酸配列を調べた結果、4種類は紅藻の表在性タンパクPsbO, PsbQ', PsbV, PsbUと相同性を示し、1種類は紅藻ゲノムと珪藻ESTに未知タンパクとして報告されているタンパクであった(長尾ら、今大会)。これら表在性タンパクの詳細を明らかにする目的で、今回は、珪藻PSII標品に存在する5種類の表在性タンパクのクローニングを行い、塩基配列を決定した。その結果、psbVのみ色素体ゲノムにコードされており、他の4種の表在性タンパク遺伝子は、すべて核ゲノムコードであった。さらに、予測されるアミノ酸配列からリーダーシークエンス領域を解析すると、核ゲノムコードの遺伝子は全て葉緑体ERのシグナルペプチドから始まり、葉緑体膜とチラコイド膜のトランジットペプチドを持つことが明らかになった。この結果は、PsbO, PsbQ', PsbV, PsbUに加えて未知の表在性タンパクもルーメン側に存在し、酸素発生系で機能している可能性を示唆している。