抄録
環境ストレス下では、葉緑体は光過剰状態となり、葉の細胞成分は活性酸素種により酸化される。過酸化脂質から生じるアルデヒド、ケトンは葉緑体のカルビン回路を阻害する。一方、アルデヒド消去酵素を過剰発現した植物は環境ストレス耐性が増強される。すなわち、アルデヒドやケトンは環境ストレスに関与している。特に、α,β-不飽和カルボニル化合物を飽和カルボニル化合物に還元する2-alkenal reductaseの過剰発現は強光ストレス耐性を増強する。このことから、強光条件下では、葉緑体でα,β-不飽和カルボニル化合物が生じ、細胞に障害を与えると考えられる。葉緑体でどのようなアルデヒド、ケトン種が生成するかを調べるため、ホウレンソウ葉緑体からアルデヒド、ケトンを抽出し、2, 4-dinitrophenylhydrazineで誘導体化し、HPLCで分離・定量した。標準物質との比較から、葉緑体中には、butyraldehyde, n-hexanal, n-nonanalなど8種類の飽和アルデヒド、2E-hexenal, 2E-nonenalなど3種類のα,β-不飽和アルデヒド、および未同定のアルデヒド、ケトンが少なくとも9種類検出された。この中で最も含量が高かったのは12-oxophytodienoic acid、acetone(それぞれ35 μmol/mg Chl, 15μmol/mg Chl)であった。