抄録
多細胞植物の細胞壁は分化・形態形成機構において主要な役割を担っており、植物の部位や生長の各過程でその性質を様々に変化させる。我々は細胞壁合成の機構解明を目的として、Nicotiana tabacumを植物材料とし、アクティベーションタギングベクター pPCVICEn4HPTを用いてリーフディスク法による形質転換を行い、細胞壁合成関連遺伝子の活性化により細胞接着に異常を生じた変異体の作出を試みた。その結果、葉や茎が透明化し、細胞接着が弱い変異体を7系統単離し、これらをshoolac (shoot with loosely attached cells) 変異体群と名付けた。shoolac1変異体において、細胞壁多糖構造に生じた変異を解析するため細胞壁の単離・分画を行い、各画分の構成糖分析を行った。その結果、ヘミセルロース画分において、変異体のアラビノース含有量が野生型に比べ増加していたことから、ヘミセルロース中のキシログルカン側鎖の構造に変異が存在する可能性に注目した。そこでxyloglucan-specific endoglucanase処理を行ったヘミセルロース画分をLC-MSおよび1H-NMR解析したところ、shoolac1変異体ではキシログルカン側鎖のアラビノース含有量が野生型に比べ約2倍増加していた。以上の結果より、キシログルカン中のアラビノース量の増加と細胞接着との関係が示唆された。