抄録
多細胞生物にとって細胞間接着は、形態形成の調節を行う上で非常に重要な要素の一つである。我々はこれまでに、タバコ半数体植物に対してT-DNA tagging法を行い、細胞間接着に変異が見られ、器官分化能力を失った細胞接着変異株nolac (non-organogenic callus with loosely attached cells)を複数作出し、原因遺伝子の特定や機能解析を行ってきた。nolac-K4 株より単離した原因遺伝子NpLRX1 は、LRR(Leucine-rich repeat)領域と、EXTENSIN領域を持つキメラタンパク質をコードしていた。この構造より、NpLRX1は細胞の形の制御に関わる細胞壁タンパク質の一つであり、LRR領域を介して何らかのシグナル伝達に関与していると推測された。NpLRX1 -RNAi形質転換不定芽では、細胞の形や大きさが異常になり、細胞間に大きな間隙が観察された。一方、タバコBY-2培養細胞にNpLRX1 -RNAiを導入した場合、細胞の一部の肥大・突出や、表層微小管の配向に異常が観察された。また、LRR領域のみを発現させた形質転換不定芽やBY-2培養細胞においても、同様の表現型が観察された。NpLRX1 全長やEXTENSIN 領域の発現では、特に顕著な表現型は認められなかった。これらの結果より、NpLRX1はLRR領域を介して、細胞骨格系の因子に影響を与え、細胞の形を制する事で細胞接着に関与していると考えられる。