抄録
繊維細胞と管状要素(道管・仮道管)の二次細胞壁は陸上最大のバイオマスを占める。これまでに二次細胞壁成分の生合成に関わる数多くの遺伝子が同定されてきたが、これら遺伝子が協調して発現するための分子機構についてはほとんど分かっていない。私たちはこれまでに2種類の道管(原生木部道管・後生木部道管)の分化を制御するマスター転写制御因子としてNACドメインタンパク質であるVND6とVND7を同定したが、本研究で私たちはVND6・VND7と同じサブファミリーに属するNACドメインタンパク質SND1(for secondary wall–associated NAC domain protein)が繊維細胞の二次細胞壁形成の制御の鍵を握る重要な転写活性化因子であることを突き止めた。SND1はシロイヌナズナ花茎で維管束間繊維と木部繊維に特異的に発現し、ドミナントリプレッションによって繊維細胞の二次細胞壁形成が強く抑制された。また異所的な過剰発現によって二次細胞壁形成関連遺伝子と繊維細胞で強く発現することがすでに見出されているいくつかの転写制御因子遺伝子の発現が上昇し、それに伴って非繊維細胞に異所的な二次細胞壁の沈着が起こった。