抄録
植物ペルオキシダーゼの多くは、リグニン構成単位の1つであるシナピルアルコールを効率よく酸化できない。その原因として活性ポケット入り口に存在するPro139がシナピルアルコール(SA)の進入を妨げていることが示されている。一方、我々が単離した細胞壁結合性ペルオキシダーゼアイソザイムCWPO-Cは、SAに対して高い酸化能を有し、高分子モデル基質であるシトクロムcを酸化できることを見出した。今回、ホモロジーモデリングにより構築したCWPO-Cの構造解析およびアミノ酸化学修飾法によりCWPO-Cの基質の酸化部位の推定を行った。
ホモロジーモデリングにより構築したCWPO-Cと他の植物ペルオキシダーゼの結晶構造を比較したところ、活性ポケットはほぼ同じ大きさであった。また、SA進入の妨げになるPro139を保有していることから、活性ポケットでSAの1電子酸化反応を触媒しているとは考えにくい。
一方、チロシン残基特異的化学修飾剤であるテトラニトロメタン(TNM)でCWPO-Cを処理したところ、顕著な酸化活性の減少が認められた。また、TNM処理したCWPO-Cは、シトクロムcを酸化できないことからタンパク表面上のTyr残基が基質の酸化部位と推定された。CWPO-Cは4つのTyr残基を保有しているが、ホモロジーモデルから、これらのうちTyr74とTyr177がタンパク表面上に露出していることが判明した。したがって、これらのTyr残基が基質の酸化部位であると考えられる。