抄録
葉緑体のグラナスタック構造の形成メカニズムは不明な点が多く、円盤状のグラナチラコイドが積み重なる説や螺旋状に形成される説など、複数の説が提唱されている。シロイヌナズナのpcb2変異株は、クロロフィル合成酵素の1つ、ジビニルプロトクロロフィリド8ビニルレダクターゼを欠損している。この変異株ではクロロフィルの代わりにジビニルクロロフィルを蓄積するだけでなく、葉緑体のグラナスタックの積層数が減少し、円筒状構造が乱れていた。クロロフィル合成酵素の欠損が、なぜ葉緑体内膜構造に異常をもたらすのだろうか?一般的にグラナスタック形成には、LHC II複合体が重要であるとされており、pcb2変異株でもLHC II複合体の形成が異常であることが分かった。その原因は、クロロフィルとジビニルクロロフィルのわずかな立体構造の違いが、クロロフィル-タンパク質複合体の形成に障害を生じるためと考えた。さらに興味深いことに、pcb2変異株では直径の大きくなった不定形のグラナチラコイドが互い違いに伸長している構造が観察された。このことは、グラナスタックを円筒状に維持するメカニズムが存在することを示唆し、それがpcb2変異株では正常に機能していないものと推測される。本発表では、このような知見から考えられる新しいグラナスタック構造の形成メカニズムについて議論したい。