抄録
ゲノム比較法には、それらの共通な遺伝子の並びに着目し、それらの遺伝子間で生物種間に共通な遺伝子間相互作用を推測する方法がある。しかし、この方法を適用するには個々の遺伝子の塩基配列間に高い相同性が保存されている必要があるため、進化的に離れた種間の比較には適さなかった。この問題を解決するため、我々は複数の生物種間で相同性の高い遺伝子をクラスタリング手法によって分類したデータセット(遺伝子クラスター)を相同遺伝子の代わりに使用して解析をおこなった。遺伝子クラスターのデータセットは当研究室の佐藤によって開発されたGclustサーバー ( http://gclust.c.u-tokyo.ac.jp ) 上のシアノバクテリア16種のデータセットを用い、ゲノム上での距離関係について解析した。その結果、これらの生物種では相同遺伝子の両側数十個にわたってクラスターの近接関係が保存されており、これらの関係が海洋性シアノバクテリアと淡水性シアノバクテリア、およびAnabaena属の3つのグループ間で異なっていることが分かった。また、この距離関係を用いて隣接関係の類似度を階層型クラスタリングで分析したところ、分子系統樹による系統関係とほぼ一致する結果を得た。これらの結果から本手法がシアノバクテリアに限らず、一般的な生物種間のゲノム比較に応用可能であることが分かった。