抄録
冬季に温度が氷点下になる地域に生育する植物は、低温馴化により高い凍結耐性を獲得し、細胞外凍結に耐えることができる。植物細胞は細胞外凍結下では必ず氷晶より機械的ストレスを受けるため、低温馴化過程で機械ストレス耐性を上昇させていることが予想される。近年、動物細胞では機械ストレス耐性に細胞膜修復機構が深く関与していることが明らかとなってきた。細胞膜修復機構とは、機械ストレスにより生じる細胞膜の“穴”を、“穴”を通して細胞外から流入するカルシウムをシグナルとして利用することにより、内膜を用いて損傷した細胞膜を修復する機構である。細胞膜修復の報告は動物細胞のみではあるが、この機構が植物の高い凍結耐性に関与している可能性は十分にある。我々は、シロイヌナズナ葉より単離したプロトプラストを用いて、凍結下における細胞外カルシウムの有無による凍結耐性の差により、凍結耐性に対する細胞膜修復の可能性を検討してきた。その結果、少なくともプロトプラストの凍結耐性には細胞膜修復が関与し、またその耐凍性は氷晶成長に対するものであると推定された。しかし、プロトプラストには細胞壁がないため、実際の植物細胞の現象と異なる可能性がある。そこでシロイヌナズナ葉より生きた組織切片を作製し、低温顕微鏡を用いて細胞膜修復による凍結耐性を検討を行った。その結果、この場合でも細胞膜修復が氷晶成長に対する耐性に関与すると推定された。