抄録
温帯域に生育する植物は、凍らない程度の低温にさらされると凍結ストレスに対する耐性が増大する(低温馴化)。低温馴化過程では細胞膜の脂質や膜タンパク質の組成変化が起こり、このことが凍結ストレス下における細胞膜の構造・機能維持に深く関わると考えられている。低温馴化によって凍結耐性が増大した植物では、細胞膜スフィンゴ脂質含量の減少が共通してみられる。スフィンゴ脂質は、細胞膜上で不均一に分布し、シグナル伝達や膜輸送などを行う機能性タンパク質が集合した「細胞膜マイクロドメイン」の形成と維持に関わることが動物細胞を用いた近年の研究によって提示されている。これらのことを踏まえ、本研究では、低温(2℃)処理前後のシロイヌナズナ植物体を用い、スフィンゴ脂質に富んだ細胞膜画分を非イオン性界面活性剤不溶性細胞膜(DRM)画分として単離し、DRM画分に局在するタンパク質成分の低温処理に伴う挙動について比較解析を行った。SDS-PAGEや2D-PAGE解析の結果、DRM局在タンパク質の発現パターンが低温処理によって量的・質的に変動することが示された。また、MALDI-TOF-MSによるDRM局在タンパク質同定では、細胞膜脂質や膜タンパク質の再構築への機能が推察されるタンパク質群がDRM画分に存在し、これらのうち幾つかのタンパク質発現量が低温処理によって変化することが明らかとなった。