抄録
イネOsPti1aを欠失した変異体では、病原菌の感染に関わらず葉に擬似病斑を示し、一連の抵抗性反応が誘導される。OsPti1aはトマトPti1(SlPti1)相同遺伝子であるセリン/スレオニンキナーゼをコードしており、イネにおいてOsRAR1の上流で機能し、抵抗性シグナル伝達を負に制御する新規な因子であることを昨年本大会で報告した。今回我々はOsPti1aを介する抵抗性シグナル伝達について解析を進めるため、アミノ酸置換によりキナーゼ活性を欠失させたOsPti1aK96N変異タンパク質を作成した。OsPti1aK96Nをnull変異体に導入したところ、ospti1aでみられる擬似病斑の形成および矮性の表現型が相補された。またイネにおいてSlPti1相同遺伝子は2コピー存在するが、OsPti1bはOsPti1aに比べ植物体での発現量が非常に低く、また自己リン酸化活性を有していない。OsPti1b遺伝子をospti1a変異体において高発現させたところ、OsPti1aK96Nを導入した場合と同様にospti1a変異が相補された。以上のことからOsPti1aによる抵抗性の抑制にはOsPti1aのキナーゼ活性ではなく、ある閾値以上のPti1タンパク質の存在が必要であると考えられた。また、培養細胞を用いた実験より、ospti1a変異体ではH2O2に対する感受性が高く、野生型より低濃度のH2O2で細胞死が有意に強く誘導されたことから、OsPti1aは活性酸素による細胞死の誘導制御に関与していると考えられた。