抄録
我々は、シロイヌナズナの耐塩性変異体stm1を単離し、その原因遺伝子がアンキリンリピートタンパク質をコードすることを明らかにした(第47回本会年会)。本研究では、STM1遺伝子の欠損がどのように耐塩性に関与するかを知るために、塩ストレスに伴うNa+の蓄積について、stm1変異体と野生株を比較した。Na+の蓄積が緩和された植物は耐塩性を示すことが知られている。塩ストレス下におけるstm1変異体のNa+含量は野生株と同様であったため、stm1変異はNa+含量調節とは異なる耐塩性機構に関与する可能性が示唆された。次にstm1変異体の乾燥、浸透圧ストレスに対する耐性を調べた。植物の乾燥、浸透圧ストレス応答機構は塩ストレス応答機構と部分的に共通しており、耐塩性植物は同時にこれらのストレスにも耐性を示す場合が多い。stm1変異体は乾燥、浸透圧ストレスに対して野生株と同様に損傷を受けたことから、stm1変異は塩ストレスに特異的な耐性機構に関与する可能性が示唆された。耐塩性に関与する重要な反応として、活性酸素の生成と除去がある。塩ストレスに応じて活性酸素が生成されるが、過剰な活性酸素の蓄積は植物を枯死させる。stm1変異体では、塩ストレス下における活性酸素の蓄積が野生株と比較して抑えられていたため、活性酸素の蓄積の低下がこの変異体の耐塩性の原因である可能性が考えられた。STM1は、塩ストレスに応じた活性酸素の生成、蓄積に関与していることが予想される。