抄録
植物の根の表皮細胞には根毛が存在するが、土壌から水や養分を効率よく吸収するためには、根と根毛が土壌に接触していることが非常に重要である。寒天上で生育させた野生型シロイヌナズナでは、根が寒天から離れると根毛が長くなる現象が観察される。これは接触という刺激に応答して細胞がその形態を変化させたことを示していると考えられる。
timid (tmd) 突然変異体は、根が寒天から離れた時に野生型とは異なり根毛が短くなる。TMD 遺伝子はGPIアンカータンパク質をコードし、TMDタンパク質とGFPとの融合タンパク質を発現させその局在を調べたところ、GFPの蛍光は根の根毛細胞の細胞境界付近で強かった。この根を高張液中に浸して原形質分離させると、GFPの蛍光は細胞膜の内側の強いシグナルに加えて、根毛の先端で細胞膜の外側のアポプラスト空間でも見られた。このことから、TMDタンパク質は膜から分泌されていることが示唆された。さらに、TMDタンパク質のC末端領域を欠損させた分泌型TMDと、この領域を膜貫通ドメインに置換した膜結合型TMDをtmd 突然変異体で発現させると、分泌型TMDを発現させた植物でのみ空中での根毛の伸長が見られた。以上の結果から、TMDタンパク質は根毛の先端において細胞外に分泌され、接触刺激に応答した根毛伸長を制御していることが示唆された。